星空での再会


「きっと迎えにきてね!待ってるから!」

涙をこらえながら笑顔で見送ったあの日からもう一年の月日が流れていた。
あの日と同じように雲一つない澄み切った星空が広がっている。
そんな星空とは対照的にウェンディの気持ちはどんよりと曇っていた。
ため息を一つつきながら星空を見上げる。

……もう2度とピーターパンに会えない……

その現実がウェンディの顔を曇らせてゆく。



それはウェンディ達がロンドンへ《旅行》に来た半年後のこと
ウェンディは父の友人の紹介でロンドンでは有名な全寮制の学校へと編入することになってしまった。
話を聞いたウェンディはもちろん猛反対したのだが父は一切耳を貸さなかった。

ーーーここを離れたら二度とピーターパンに会えない!!!ーーー

心の中で叫び続けた。最後まで父の心は変わらずウェンディはピーターパンと約束した
この子供部屋から遠く離れて暮らすことになってしまったのだった。
この寮へ来てからもウェンディはピーターパンとの約束を忘れる事はなく
時がたてば経つほどに会えない思いは募るばかりだった。


そんなある星のキレイな夜の事いつものように窓から星を見ていたウェンディは
キレイな小物入れから何かを取り出して見つめた。沢山の思い出が詰まったあのどんぐりの首飾り
ロンドンに戻ってからもウェンディは大事に大事にしまっていた
これを持っていればきっともう一度ピーターパンに会えると信じて。
首飾りをして窓際に立ち目を閉じると子供部屋から見えた景色がハッキリと浮かんでいた
…目を開けてしまえばピーターパンに二度と会えない現実が景色が広がっている。
ウェンディはしばらく目を閉じ初めてピーターパンと出会った時のことを思い出していた。
ピーターパンが影を落として縫ってあげたこと。妖精の粉で空を飛びネバーランドへと行った事。
どれも色褪せることなくウェンディの心の中で輝いていた。

「…ピーターパン…もう少し早く迎えに来てくれればよかったのに…
ピーターパンは私のこと忘れちゃったのかしら…
私もう一度、もう一度だけピーターパンに会いたいの…」

ウェンディの目から涙がこぼれ落ち、頬を伝い首飾りを濡らした。

すると首飾りがキラキラと光を放ち柔らかなピンクの光がウェンディの体を包みこんでいった。

「!?…こ、これは…この光は妖精の…もしかして…」

ウェンディはありったけの楽しい事を思い浮かべてジャンプした。しかし体は宙に浮くことはなかった。

「…飛べない…妖精の粉ではないのね…じゃあこの光は一体…きゃっ」

そう思った瞬間さらに強い光がウェンディの包み込み視界と意識を奪った。



しばらくして気が付いたウェンディはその目に映る光景に息を呑んだ。

「ここは…私がいた子供部屋だわ!…でもどうしてここに…」

あたりを見回すウェンディの目の前を黒い影が通りすぎた。
あれは…あの影はもしかして…忘れるはずないわ。あのシルエットは…

「ピーターパン!」

声に気づいた影は動きを止めた。するとひらひらと頭上から舞い落ちウェンディの足元に落ちた。

「こ、これは…ピーターパン!ピーターパンの影だわ!!…約束守って来てくれたのね!
ピーターパン…どこにいるの?お願い答えて!!私よ!ウェンディよ!」

部屋中を見回してもピーターパンの姿は見当たらなかった
ウェンディは窓に駆け寄り身を乗り出してピーターパンを探した。
…ここにもいないわ
部屋へ戻ろうとしたその時窓枠にかけた手が滑りウェンディはバランスを崩した。

「!!、、きゃああっ」

落ちる!!そう思って身を硬くしたウェンディを懐かしい腕がしっかりと受け止めた。

「…!?ピーターパン!!」

「やぁ!ウェンディ!!大丈夫だったかい?」

「ええ。ありがとう。」

ピーターパンはウェンディを窓脇に座らせるとその隣に腰かけた。

「約束どうりもう一度迎えに来てくれたのね。また会えて嬉しいわ。」

ピーターパン約束守ってくれたのね…ウェンディは嬉しさで胸がいっぱいになった。

「ああ!もちろんさ!今度もスゴイ冒険を用意して迎えにきたんだよ!でもその前にさ、あれ?」

ウェンディの手に握られた影を見たピーターパンは

「ああっ!僕の影!よかったぁ〜。実はさっきからずっと探してたんだ。」

「ピーターパン座って。また私がつけてあげるわ」

いたずらっぽく笑いながら木馬のおもちゃを指しウェンディは言った。

「ふふっ。一番最初にピーターパンに会った時もこうして影を縫ったわよね…」

ウェンディは懐かしそうにピーターパンの影を縫いつけながら言った。

『僕の影また見つけてくれてありがとう!でもさウェンディきみはどこにいたんだい?

さっき僕が来た時にはこの部屋には誰もいなかったから…』

いつになく硬い表情でピーターパンはさらに話を続けた。

『…だから僕はてっきりウェンディもジョンもマイケルもみ〜んな大人になって
しまったんだと思って…ネバーランドに戻ろうとしてたんだ。』

ウェンディは思わず手を止めてしまう。

『その帰り道に僕の影がいきなり光始めてふっと消えたんだ。
僕はあわてていろんな所探したんだけと見つからなくて
もう一度ここに戻ってみたら、ウェンディがいたんだよ』
「…そうだったの。ごめんなさい。私…」

ウェンディが今までの事を話そうとするより早くピーターパンが更に続けた。

『ウェンディは僕との約束を忘れてしまっていたのかい?…僕は絶対に忘れなかったのに…』

影を縫い終えたウェンディはピーターパンの腕を勢いよく掴むとハッキリと答えた。

「ピーターパンを忘れたことなんて今まで一度だってないわ!
私だって迎えにきてくれるのをここで待っていたわ。ここを離れてからだって約束はずっと…っ!!」

言葉につまりそれ以上うまく言えなかった。そんなウェンディを見たピーターパンはあわてて

『わ、わかった!…ゴメン。』 

いつになく素直にあやまるピーターパンにウェンディも落ち着きを取り戻して言った。

「…私の方こそごめんなさい。でもこの影には感謝しなくちゃね。
おかげでもう一度ピーターパンに会えたんですもの!
間に合って本当によかった…。ピーターパン、私ね…」

『ウェンディ!少し空の散歩に付き合ってくれるかい?』
「え?でも妖精の粉がないと空は…きゃ!」

ウェンディが最後まで言い終わらない内にピーターパンはウェンディを抱きかかえ外へと飛び出した。
二人でしばらくロンドンの夜景の上を踊るように飛びまわりながら
空の散歩を楽しんだ後あの日と同じように時計台の所に座った。
頬を心地よい風が吹き抜けていく。二人でしばらくその風にふかれながら星を見ていた。

「…気持ちいい。やっぱり空を飛ぶって素敵ね。」
『よかった。ウェンディはちっとも変わってないや。今までネバーランドに来た子供達は
僕の事を忘れて大人になってしまった…。でもウェンディは僕のこと忘れずにいてくれた。
…ウェンディにだけは忘れてほしくなかったから…』
「…ピーターパン。私はピーターパンを絶対忘れたりしないわ。これからもずっと…約束。」

ウェンディはピーターパンにキスをした。頬ではなく唇へのウェンディのファーストキス。
今まで貰ったキスとは違う感触に目を丸くしピーターパンはその場に固まってしまった
そんなピーターパンにウェンディは優しく言った

「このキスはね特別な人だけにしかあげないのよ。一番大好きな人にだけ…ピーターパン、お願い。
私をネバーランドへ連れてって。大人になってピーターパンを忘れてしまう前に。
もう決めたわ。私ピーターパンとずっと一緒にいたい。」
『…もちろんさ!僕も約束する。一緒にネバーランドへ帰ろうウェンディ。』

今度はピーターパンからウェンディにキスをした。特別な、一番大好きな人にあげる唇へのキス…

「へへっ。じゃあこのキスは僕だけの特別なんだね。」
「ええそうよ。ピーターパンあなただけにしか…」

二人で見つめあいそんな会話をしているとものすごい勢いでティンクが二人の間に割って入ってきた。

「ちょっと〜〜っ!!!ウェンディ!そんなにピーターパンにくっつかないでよー!!」

「まぁ。ティンク!ひさしぶり!会いたかったわ。元気だった?」

「私は元気に決まってるでしょ!それよりピーターパンに何しょうとしてたのよ!
全く油断も隙もないんだから!」

どうやら二人だけの約束はティンクに気づかれずにすんだみたい。
心の中で二人はホッとしていた。

「それにピーターパン!!置いていくなんてヒドイじゃないの!
いくら影が消えたからって!私も探すの手伝うのに!って…あら」
「影は見つかったからもういいんだ。よおし!それじゃ今からネバーランドへ戻ろう!」
「あ、でもピーターパン。ジョンやマイケル達は…」
「それはご心配なく。ほら。」

ティンクが指差す先には上手に飛ぶマイケルとふらふら飛んでいるジョンの姿があった。

「あ、お姉ちゃんだぁ。やっぱりピーターパンと一緒だよお兄ちゃん。」
「え?ウェンディ?ほんとだ。さっき部屋から聞こえた声はやっぱりウェンディだったんだ。でもどうやって戻って…」
「ジョン。マイケル久しぶり!私はもう一度ネバーランドへ行くわ!あなた達はどうする?」
「ボクは行くよ!ラスカルにお土産たくさんもってきたんだ。」

マイケルは得意げにパンパンに膨らんだポシェットを見せた。

「もちろん僕も行くさ。リリー元気にしてるかなぁ…ああ早く会いたいよ」

「よーし。それじゃ全員そろったところでネバーランドに出発だぁ!」



そして三人は再びピーターパンと共にネバーランドへ

これからどんな冒険が待っているのかは

彼らだけが知る彼らだけの宝物

二人だけの約束

その結末は二人だけの特別な秘密。





※著作権は放棄していません。無断転載は禁止です。
転載は管理人に一声お掛けください。(いないとは思うけど(苦笑)


2003年01月29日 ピーターパン同盟 妄想投稿掲示板 投稿作品。

2005年08月21日 再編集いたしました。


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