冒険の前 ーー二人の想いーー


いつからだろう…ウェンディはみんなが寝静まった後、一人夜空を見上げている。
「どうしたの?」って声掛けたいのに何故か掛ける事をためらってしまう。………。
………そう。僕は君が今、何を思っているのか気づいてしまったんだ。
こんな光景を見るのは初めてじゃない。今まで沢山の子供達をネバーランドに
連れてきたから分かるんだ…。”その時”が来る前は必ずそうだった。
………ウェンディ、君もきっと………。



冒険から帰ったピーターパンがそっとウェンディを見つめていたその時
ウェンディがピーターパンに気づき、声をかけた。 

「!?あら。ピーターパン。おかえりなさい。今日の冒険はずいぶん早かったのね。」
「き、今日はあまりいい冒険に出会えなかったんだ。ウ、ウェンディこそ こんな時間に一人で何してるのさ?」

気づかれた事に驚いてピーターパンの返事はどもってしまう。 

「…星をみていたの。ネバーランドの星空はいつみてもステキなんですもの。」

…いつもと変わらないウェンディ。だけど今の僕はその笑顔に安心する事ができなかった。

「ウェンディ。ウェンディはこのネバーランドが好きかい?」
「え?」

いきなりのピーターパンの質問に驚いたウェンディだったがはっきりとした口調で答えた。

「ええ、もちろんよ。こんなに毎日が楽しくてステキな所なんですもの…でもどうして今頃?」

そんな事を聞くの?とウェンディが言うより早くピーターパンが口を開く。

「…だったらさ」
「……?」
「このネバーランドにずっといてほしいんだ。…ロンドンになんか帰らないでさ。」
「!」

今まで抑えていた言葉が飛び出してくる。…かっこ悪い。でも止まらない
他の子達には言えなかった。でも今度は、ウェンディだけには帰って欲しくない…

「………ピーターパン…。」

戸惑うウェンディに我に返ったピーターパンは慌てて照れを隠すかの様に続けた。

「……!…き、きっと、カーリー達がそう思ってるだろうと思ってさ。」

「………」


ウェンディはそれ以上なにも言えなかった。
ピーターパンの一言にウェンディもまた気づいてしまった。
さっきまで星空を見上げロンドンの事を考えていた事をピーターパンに気づかれた事
今まで彼がいろんな子供達をネバーランドへ招待し、そして家へと帰ってゆく姿を何度も見てきた事
そんなピーターパンが今まで何度も抱いてきた、その心の中の思いに…


「…ピータパン。私、ネバーランドがみんなが大好きよ。
  …同じぐらいロンドンも大切だけど私まだ帰りたいなんて思っていないわ。
 ……だからそんな事言わないで。」

ウェンディはピーターパンの手を取り、優しく見つめながら答えた。

「…ウェンディ。いつかは他の子と同じように帰ってしまうの?僕はずっと君にここにいてほし…」

………!!!しまった。こんなかっこ悪い事ウェンディに言うつもりじゃ…
ウェンディの手を振り払いピーターパンは恥ずかしさを隠すように背を向けてしまった。
そんなピーターパンの言葉にウェンディは驚きと嬉しさを感じていた。そして…


「…ピーターパン、ありがとう。」


                               挿絵 梛砂りん様v

そう言うとウェンディは静かに後ろからピーターパンを抱きしめた

「う、ウェンディ?!」

後ろから抱きしめられたピーターパンは目を白黒させて戸惑っていた。
恥ずかしくてたまらないのにそれでもウェンディを振りほどく事が出来ない。

………ウェンディのぬくもりと優しさが背中を通して伝わる………。

ゆっくりとウェンディはピーターパンの背に顔をつけたまま話はじめた。

「私もずっとネバーランドにいたい。でもいつかはロンドンへ戻らなきゃ
帰らなきゃいけない日が来ると思うの。でも、でもね…。」
「……でも?」
「ピーターパン。いつもみんなにお話していたシンデレラのお話覚えてる?
シンデレラも一度はお城から帰ってしまうけど王子様がまた迎えに来てくれたわ。
 だから私がいつかロンドンに帰る事になっても、もう一度に迎えに来て。
  お願いよピーターパン。そうすればまた一緒にいられるわ
  ……私だってピーターパンとさよならするなんてイヤ…。」
「…ウェンディ…」


………ウェンディも僕と同じ気持ちでいてくれている………

ピーターパンの心の中の不安はウェンディの思いと言葉に触れ消え去ってゆく

「…ピーターパンも、もう一度迎えに来てくれるわよね?」

ウェンディが不安そうに続けた。

「もちろんさ!約束だ!ウェンディ。たとえキミがロンドンに戻っても必ずまた迎えに行くよ!」

ウェンディの方へくるっと向き直りピーターパンは笑顔でハッキリと答えた。


いつものピーターパンに戻っていた。……もう悩む事はないんだ。
ウェンディは必ず帰ってくるんだ。たとえロンドンへ一度は戻ろうとも
シンデレラが答えを教えてくれた。シンデレラってすごい奴だ。


ピーターパンの返事にウェンディにも笑顔が戻っていた

「ねぇ。ピーターパン。ネバーランドにはもっとステキな冒険が待っているんでしょ?
私まだまだ、たくさんピーターパンと…みんなと楽しい冒険がしたいわ。」
「もちろんさ!よぉし!そうと決まれば今から探しにいってくるよ!」

そう言うとピーターパンは勢いよくどこかへと飛んで行ってしまった。

「あっ。ピーターパン、今すぐに行かなくても…。もう…。」

ウェンディは困ったように彼の飛んで行った方に目をやった

「…でもピーターパンらしいわね。ふぁぁ…そろそろ眠りましょ。
明日もみんなに朝ごはん作ってあげなくっちゃ。」

もう一度星空を見上げてウェンディは家の中へと入っていった。



”その時”はくるだろう。だけどもう悲しくなんてない。
シンデレラはウェンディだったんだ。王子様なんてかっこ悪くてイヤだけど
ウェンディは必ず僕が迎えに行くんだ。

その後、ウェンディが一人夜空を見上げる姿をピーターパンが見る事はなかった。
ロンドンへの思いは再びウェンディの心の奥にしまわれた。
…今はネバーランドでの冒険の事だけ考えていたい…。

それから数日後、彼らは新たな冒険へと旅立っていった。ネバーランドを救う新たな旅へ…。




※著作権は放棄していません。無断転載は禁止です。
転載は管理人に一声お掛けください。(いないとは思うけど(苦笑)


2003年08月03日 ピーターパン同盟 妄想投稿掲示板 投稿作品。

2005年8月21日 部分修正いたしました。

2005年9月13日  以前頂いていたイラストのUPの承諾を頂きましたのでページ内にUP
  おかげでこのSSが華やかになりましたv素敵なピタウェンを本当にありがとうございますvv
このイラストの著作権は梛砂りんさまにあります。無断転載はもちろん禁止です。

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